『めぞん一刻』を『こころ』の再話として読む。

takuzemi2007-07-26

小森陽一・中村三春・宮川健男編『総力討論 漱石の『こころ』』(翰林書房)を読みました。高校の国語教科書に教材として載せられる『こころ』ですが、実は倫理や友情の書なのではなく、とんでもなくいかがわしい書物として読める作品なのだと言うのですね。執筆者の一人・押野武志さんは、『こころ』の連載後に漱石のもとに寄せられた小学生の疑問に対する漱石自身の返事を紹介しています。「あれは子供がよんでためになるものじゃありませんからおよしなさい」とたしなめているのだそうです。(p.169.)そして、押野さんは「それではなぜ、このようないかがわしい作品が、倫理の書として日本文学の正典として今日の国語教育の中にまで浸透してしまったのでしょうか」(p.169.)と問いかけていきます。・・・宮川健男さんの「再話された『こころ』」では、まんが『めぞん一刻』を『こころ』の再話として読むことができるという面白い発表です。・・・小森陽一さんの言う「倫理」「精神」「死」といった父性的価値を中心化するイデオロギー装置として機能している『こころ』を、巧みに相対化して、脱中心化していく試みが集められた一冊だとも言えるでしょう。『めぞん一刻』の五代君の教育実習風景も転載されていて楽しめました。