「澁澤龍彦 カマクラノ日々」

takuzemi2007-05-21

鎌倉文学館の企画展「澁澤龍彦 カマクラノ日々」の展示は、この特異な作家の原稿や構想ノート、メモなどを中心とするものでした。以下は、それを見ての感想です。先ずは当たり前のことですが、澁澤が大変な勉強家だったという事実で、几帳面な構想ノートがそれを物語っています。フランス語で「仕事をする・勉強をする」という動詞はtravaillerですが、この作家の資質の根底には、そうした粘り強い持続するものがあったと感じました。
そして、もう一つはあふれ出る奔放な想像力の持ち主だったという事実で、次々と書き込みを加えられて修正された跡の残る原稿が、それを物語っています。そこでは、書かれた言葉が次に書かれた言葉によって修正され、その言葉がまた次に書かれた言葉によって修正されていきます。原稿用紙の行間から、新たな空想が沸いて出てくるようなあんばいなのです。フランス語で「想像する」という動詞はimaginerですが、この作家の資質の根底には、こうしたもう一つの根強い性向があったことが感じられました。
子供が落書きをしているような印象を与える澁澤の独特の文字にも興味を引かれました。若い人々の書く丸文字にも似ているような書体なのです。マンガのセリフのような「吹き出し」で囲んで次々と原稿に書き込まれていく修正部分も落書きの自由さや楽しさを連想させます。フランス語で「遊ぶ」はjouerですが、澁澤にとってはtravaillerもimaginerもjouerするための手段だったのかも知れません。(写真は鎌倉文学館