澁澤龍彦の『高丘親王航海記』(文春文庫)を読了しました。

7話からなる幻想奇譚で最後の2話は澁澤の喉頭ガンの手術の後に書かれたことでも読者を粛然とさせます。(声を失った著者は最後の生活を周囲の人々との筆談で補って過ごしたそうです。)けれども一読しての印象は意外に明るいものです。これは私の印象だけかも知れませんが、主人公の高丘親王は様々の夢の体験の中でシュルレアリストが言う「驚異」を幼児のような素直さで楽しんでいるとしか思われません。この小説に作家・澁澤龍彦の「死と再生の夢」を読み取ることは間違いではないでしょう。けれども澁澤さんの小説は倫理などから切り取っては欲しくないですね。純粋な遊戯として営まれる文学も当然存在するわけですし、それが「人生いかに生きるべきか?」という命題を最重要視する(と自分で思い込んでいる?)くそ真面目な作品よりも軽いものであるということもありません。