『『こころ』大人になれなかった先生』を読了しました。

takuzemi2007-08-26

石原千秋氏の『『こころ』大人になれなかった先生』(みすず書房)を読了しました。同じ著者の『反転する漱石』(青土社)で展開された三本の『こころ』論を若い読者に向けて新たに書き直したと「おわりに」にあります。大変に読みやすい本ですが、著者の言う通り、「研究としてのレベルを落としは」していません。第1回のレッスンは「なぜ見られることが怖いのか」と題して、「先生」の視線恐怖が分析されます。そこから「先生」の「K」に対する複雑な感情も読み解いていきます。「K」の自殺の理由についての解釈も、クロノロジーの整合性も踏まえた分析で納得のいくものです。
第2回のレッスンは「いま青年はどこにいるのか」と題して、「先生」の禁止を破ってまで、「先生」の遺書を公表しようとする「青年」の立ち位置が分析されます。そこには当然、「青年」と「先生」の奥さんである「静」との位置関係の分析も伴います。
そして最後の第3回のレッスンは「静は何を知っていたのか」と題して、大胆な仮説的読解が提出されます。小森陽一氏の解釈にも通じる読解ですが、これは書いてしまうとミステリーの結末を暴露するのと同じことになります。ぜひとも手にとってご自分で読んでみてください。楽しい本でした。o(^0^)o