夏目漱石の『虞美人草』について語りました。

午後の3限の「文学」の授業は夏目漱石の『虞美人草』について語りました。私の好きな作品です。(私はどうやら構成が破綻した作品を偏愛する傾向があります。)水村美苗さんの論文を紹介しながら漱石の近代的な女性に対する保守的な感性を語りました。漢文学的な「男と男の世界」は漱石にとって安心できる安定したものでした。英文学的な「男と女の世界」は、その安定を突き崩すものだという水村さんの解釈です。
ギリシャ神話に出てくる怪獣に「キメラ」というものがあります。ライオンの頭、蛇の尾、ヤギの胴をもち、口から火を吐くという怪物です。虞美人草の文体はこのキメラになぞらえることが出来るかも知れません。主人公の藤尾の描写には凝りに凝った美文が使われています。小野さんの描写になるとフラットな散文が使われます。会話の部分はごく普通の会話です。全体が作り物の寄せ集めのパッチワークのような印象を与えます。では、失敗作なのか?・・・私はそうは考えていません。そうした不具合の部分が小説の問題についての色々なヒントを与えてくれるのだと思います。

研究室で一休みしていたら中文科のOさんが遊びに来ました。昨年度のフランス語?に出ていた読書好きの学生さんです。最近はどんな本を読んでいるんですか?・・・と聞いたら出たばかりの筑摩文庫の三島由紀夫の本を見せてくれました。実験的な小説という話題になったので藤枝静男の『田紳有楽』などを思いだしたところ、Oさんが読んでいるので驚きました。研究室の本棚を漁ってみたら手持ちの初版の単行本が出てきました。Oさんのおすすめの一冊は笙野頼子の『幽界森娘異聞』(講談社文庫)だと言います。帰りに本屋に寄って探してみることにしました。