「知らない自分」を暴いていく漱石の手さばきが見事です。

心理学者のジョセフさんとハリーさんが考案した「ジョハリの窓」という図表があります。ネット上に色々の解説がありますので詳しくは触れませんが、この4つの窓のうちの「未知の窓」を追い掛けているのが漱石の作品群であるような気がすることがあります。言い換えれば主人公の自分でも「知らない自分」がじわじわと露呈されてくる恐ろしさでしょうか。例えば『明暗』の津田由雄は自分の身体の中でなにか分からない恐ろしい変化が起きているのではないかとおびえます。やがては自分の意志を超えた「天」の存在を意識するようになります。あるいは『道草』の健三もやはり自分の内側の得体の知れないものの存在を意識します。知らない自分が出現するのは、やはり漱石の後期の作品群でしょうか。初期の作品には「未知の根底」を抱えている人物は余り見られません。『こころ』の先生の遺書も、自分が叔父に裏切られたトラウマを引きずりながら、叔父と同じように他人を(Kを)裏切る存在であったことを心ならずも発見していきます。この「知らない自分」を暴いていく作者の手さばきが何とも見事で、われわれ読者ははらはらさせられてしまいます。漱石のスリルとサスペンスです。
午後は学生大会のために授業は休講となっています。2時過ぎに学生食堂で遅い昼食を済ませてから早めに帰路に着きました。