若山滋著『漱石まちをゆく』を読んでみました。

日頃はクーラーを余り使わない我が家なのですが、家人も「今日は例外」と宣言してくれました。おかげで午後の居間は涼しくなり読書もはかどりました。さいたま市立中央図書館で借りてきた若山滋著『漱石まちをゆく』(彰国社)を読んでみました。「建築家になろうとした作家」の副題が付いています。漱石の作品では登場人物たちの置かれた境遇をその住居が象徴しています。『草枕』の「余」は南画的な風景の中を彷徨しています。『虞美人草』の藤尾や『三四郎』の美禰子は洋風建築の部屋に住む自我を持った女性たちです。『それから』の代助はアール・ヌーヴォー風の部屋に住み、かたや『門』の宗助は「崖の下」の日の当たらない借家に住んでいます。そうした登場人物たちと彼らの住むトポスとの関係を著者は建築家の目で見事に分析していきます。『彼岸過迄』、『行人』、『こころ』の三作を「漂う心」をキーワードに「海の三部作」として括ったところにも着眼の冴えが見られます。楽しく読了しました。