『漱石 母に愛されなかった子』を一気に読了しました。

三浦雅士さんの『漱石 母に愛されなかった子』(岩波新書)を一気に読了しました。読んだと言うよりも、読まされたと言うほうが正確かも知れません。それほど著者の語る声には力がこもっています。漱石を読む人々にこれだけは伝えたいという著者の強い思い入れが感じられます。・・・
三浦さんは副題にもあるように「母に愛されなかった子」という思考の補助線で、先ずは『坊ちゃん』の主人公の行動と内面の癖を読み解いていきます。「じゃあ、消えてやるよ」と捨て鉢になる心性を分析します。『虞美人草』の甲野も「母に愛されなかった子」が養母を罰する物語として読めるのですね。『彼岸過迄』の須永市蔵も「実は実母ではなかった母」が原因で、松本が評するように「世の中と接触する度に内へとぐろを捲き込む性質(たち)」(新潮文庫p.276.)となったのでした。漱石の主要な作品を年代順に追いながら「母と子」の有り様に視点を定めて語る作家論は大変に説得力があります。一読してから漱石の作品を再読すれば必ずや新しい発見があるはずです。夏休みに『吾輩は猫である』、『坊ちゃん』から『明暗』までを、このガイドブックを片手に再読してみることをお勧めします。