『漱石の夏やすみ』を拾い読みしてみました。

takuzemi2008-09-02

夏休みだと言うのに旅行に出掛ける余裕もありません。そこで本を読んで旅行気分を味わおうかと考えました。夏目漱石が明治二十二年、二十三歳のときに書いた全文が漢文の紀行文があります。数人の友人たちと房州を旅行した記録である『木屑録』(ぼくせつろく)です。原文は漢文にうとい私にはとうてい歯が立たない代物です。ありがたいことに高島俊男先生がこの漢文を実に平易な日本語に訳してくれました。しかも手に入れやすい形で文庫本になっているのです。高島俊男漱石の夏やすみ』(ちくま文庫)がその本です。手に取ってみればわかる様に二十三歳の漱石の若い血潮が感じられる作品です。喀血して郷里の松山へ帰って静養していた親友・正岡子規への長い手紙という一面もあり、友への想いが色濃く書き込まれています。・・・木屑録の訳文の他に高島先生の「木屑録を読む」「漢文について」「日本人と文章」「木屑録をよむ」の四本の文章が収録されています。「漱石の作品を見ると、できばえのよしあしとは別に、漱石が、おれはこういうことをやっているときが一番たのしいなあ、と思いながらつくったことがつたわってくるものがいくつもある。絵や書はたいがいそうである。俳句も、せっせとつくっては病気の子規におっくて、子規にわるくちをいわせてたのしんでいた時期のはそうである。小説では『草枕』と『吾輩は猫である』が顕著にそうである。」(p.156.)・・・この指摘には大いに同感させられました。