なぜ、こんな書物が書かれてしまったのだろうか?

takuzemi2008-12-26

奇跡だね。C'est un miracle ! 希有な達成だね。なぜ、こんな書物が書かれてしまったのだろうか?・・・ランボーにしろ、ロートレアモンにしろ、漱石のいくつかの作品にしろ、そのような書物が書かれてしまったという事実への驚きに深く打たれることがあります。
冬休みの一日、私にとってのそうした書物の一冊であるアラゴンの作品と再会することができました。今回は稲田三吉先生の翻訳での再会となります。ルイ・アラゴン著/稲田三吉訳『ブランシュとは誰か 事実かそれとも忘却か』(柏書房・原題『ブランシュまたは忘却』)です。
何度も読んでいる本なので、初めて読む本とは違います。ストーリーの展開はほとんど頭に入っています。けれども「次にはこうなるだろう」という予測を楽しみながら読むことができます。ちょうど漱石の『坊ちゃん』を何度も読んでいて展開も知り尽くしていながら、「で、それから?」(Et Après?)と面白く、しかもスリリングに読めるのと同様なのですね。稲田先生の訳書には章ごとに詳細な注が付いています。これも大変な力作で色々と教えられます。1920年代のパリの雰囲気がよみがえって来るような気がします。