アラゴンの昔の恋に想いを馳せました。

アラゴンの研究書に当たってみると『ブランシュまたは忘却』の不在の女ブランシュにはドゥニーズ・レヴィという女性の面影が投影されているらしいことが分かります。アラゴンが若き日々に苦しい恋におちていた相手の女性なのです。しかも、このドゥニーズ・レヴィはアラゴンのもう一つの作品『オーレリアン』のヒロインのベレニスのモデルでもあったらしいのですね。こちらのベレニスのイメージは女性ではあるものの「絶対探求者」としての激しさを最後まで秘めている人物で、私にとっては印象の強い登場人物の一人として記憶に残っています。・・・ドゥニーズ・レヴィはシュルレアリスムの「帝王」アンドレ・ブルトンの妻だったシモーヌブルトンの従姉妹だそうです。ある研究書によるとアラゴンの方はドゥニーズに夢中になって恋していたらしいのですが、ドゥニーズの方はそれほどでもなく、従姉妹宛の手紙などを読むとむしろ「冷淡」だったことが分かるのだそうです。・・・そんな昔の恋にこれほどまでにこだわり続けるのかと驚かされます。宮井一郎氏は『夏目漱石の恋』(筑摩書房)で漱石のほとんどすべての作品に漱石の恋の体験が書き込まれているという説を出しました。これを踏まえて熊倉千之先生も「漱石の28歳の失恋」は大きなターニングポイントであり、作中に書き込まれる「里程標」となっていると指摘しています。こんなことも思い出しながら色々と夢想に耽った一日でした。