野村喜和夫さんのランボー論を読み始めました。

takuzemi2009-03-23

みすず書房の「理想の教室」シリーズは有名な文学作品を分かりやすく解説して若い読者に紹介しようという意欲的なシリーズです。秋学期の「ヨーロッパの文学」の講義録を更新したいと目論んでいる私にも種本として役立ってくれそうな本が何冊も含まれています。その中の一冊である野村喜和夫著『ランボー『地獄の季節』詩人になりたいあなたに』(みすず書房)を読み始めてみました。
ちょっと気恥ずかしくなってしまう副題が付いていますが、中身は至ってまっとうなランボーに付いての入門書になっています。『地獄の季節』の受容史に触れた部分では、この作品が小林秀雄訳の解釈する「純粋無垢な魂の抵抗と挫折の物語」(p.26.)としての読みだけでは語り尽くせない複雑な性格をもつ「多声的」な作品であることを指摘しています。「ランボー研究がすすむにつれて、テクストの構造や言説の様態が意外に複雑であることが明らかにされ、自己同一的な主体による魂の告白というようなレベルには回収しきれない作品であるとみなされるようになった。そこにひびいているのは複数の声であり、強い「俺」の断言にはシニカルな「私」の間の手が隣り合って、つまりは対話的演劇的に作品は書かれていると。」(p.26.)・・・まだ半分ほど読了したばかりですが、最後まで面白く読めそうです。