「風も良いですよ。風を写してくださいよ!」

文学の講義では熊倉千之先生の新作『漱石の変身』(筑摩書房)と前作の『漱石のたくらみ』(筑摩書房)の二冊を学生諸君に紹介しました。どちらも作品を虚心に読み取ることで漱石の声を見事に聞き取ることに成功している作品です。
今日は『吾輩は猫である』を中心に話を進めました。小説の書き始めの一行である「冒頭の一句」をロマネスクな世界への入り口として重視する作家アラゴンの立場について話しました。小説の「嘘」(例えば「人語を解する猫」という存在)が開示する「虚数=imaginaire」の世界について色々と考えてみました。(ビデオで楽しむ予定だった映画『吾輩は猫である』は画面の調子が良くなかったので残念ながら5分ほどで中断となりました。)
帰路は出津橋からの元荒川の風景が余りに美しいので、思わず立ち止まってカバンからデジタルカメラを取り出しました。夕日に照らされた川面の光景を狙ってシャッターを切っていたら「山本先生!」と声を掛けられました。見れば人間科学部のT先生です。にこにこしながら元荒川の自然の良さを大声で讃えてくれます。「先生! 今日は風も良いですよ。風を写してくださいよ!」と難しい注文をされてしまいました。(英語のG先生も写真が好きで、大学からの帰り道でシャッターチャンスを狙っている姿が良く目撃されます。)