漱石作品の中から何を一冊選びますか?

午後は草臥れてしまって、和室で怠惰に寝ころがって本を読みました。『漱石作品論集成【第11巻】道草』(桜楓社)や『群像日本の作家1夏目漱石』(小学館)などです。どちらも字が小さくて、寝ころがって読んでいると目が痛くなります。小学館の本の方には吉田熈生氏の「「道草」−作中人物の職業と収入」という、まさしく題名通りの事実を克明に推理した論文があり感心しました。健三の家賃、食費、被服費、後年費・・・などを推理した上で、島田、お常、長太郎、比田、岳父についての収入も推理しているのですね。納得のいく労作です。
ところで、漱石作品の中から何を一冊選びますかと問われれば困惑してしまいます。『坊っちゃん』の歯切れの良さはわけもなく痛快で大好きです。「鬱」の気分の時に助けてくれる『草枕』も捨てがたい味わいがあります。『吾輩は猫である』の超絶技巧的な言語遊戯の世界も素晴らしいものです。けれども、このところ私は後期三部作を読み直して、その小説技巧の巧みさに舌を巻いているのですね。・・・漱石の作品の中から一冊を選ぶという問題設定そのものが間違っているのかも知れません。この巨きな鉱脈に出くわしたことに大きな感謝の念を抱いている今日この頃なのですね。