『国境の南、太陽の西』を読んで過ごしました。

takuzemi2009-10-22

午前中は自宅の居間で村上春樹さんの『国境の南、太陽の西』(講談社文庫)を読んで過ごしました。主人公の「僕(ハジメ)」葉37歳。青山に二軒のジャズ・バーを経営し、別荘や二台の外車も所有するという成功した男です。この「僕」には小学5年生の時に心を通わせたことのある初恋の人「島本さん」の記憶があります。その後、別々の中学校に進学した「島本さん」と「僕」とは離ればなれになってしまいます。「僕」は高校生の時にガールフレンドの「大原イズミ」を回復不可能なまでに傷付けてしまいます。「イズミ」の従姉の女性と性関係を持っていたことが露呈してしまったからです。・・・そんな過去を持った「僕」も今では妻の「有紀子」と二人の娘とともに成功者としての生活を送っているわけです。ところがある日、「僕」のジャズ・バーに成熟した初恋の人「島本さん」が現れるのですね。ここから「僕」の運命が急転していく筆力には感嘆しました。
「僕」が追い求める「島本さん」と「僕」が酷薄に捨ててしまった「イズミ」とは、あるいは「分身」として設定されているのかも知れません。ラストに近い部分で「島本さん」らしき女性の姿を見失った「僕」の前に現れる、タクシーに乗った「イズミ」の描写には衝撃を受けました。「彼女の顔からは、表情という名前で呼ばれるはずのものがひとつ残らず奪い去られていた」という部分です。ホラー小説だなと思いました。