5時間ほども『彼岸過迄』で遊んでいたことになります。

「須永の話」の第1章は敬太郎が田口家の書生の佐伯から田口の娘・千代子の結婚談を耳にするところから始まります。その真偽のほどを確かめたい敬太郎は幼い頃から千代子と親しい須永を誘って柴又の帝釈天に出掛けます。川魚料理の「川甚」に立ち寄って話し込むうちに、第3章の冒頭「僕の父は早く死んだ。」という須永の独白が始まるという構成です。12章までの前半の部分で須永とその母との関係、須永と千代子との関係が基礎知識として書き込まれます。13章は幕間です。川甚を出て東京に帰る汽車を待つ間に入った茶店で再び須永のモノローグが始まります。こちらでは須永が大学三年から四年に移る夏休みの出来事が語られます。千代子と百代子から誘われて、母を伴って須永は田口家の鎌倉の別荘へと出掛けます。その須永の前に一人の男が出現するのですね。この高木の存在が千代子に対する須永の嫉妬に火を点けるという展開です。
漱石はこの「須永の話」の章を須永に対する千代子の「卑怯だからです」という叫び声で唐突に断ち切るという実験的な試みもしています。今日は15章あたりまで読んでいるうちに一日が終わってしまいました。それでも建築家志望だった漱石の「構造物を築き上げようという意志」を強く感じました。5時間ほども『彼岸過迄』で遊んでいたことになります。(今日使ったテキストは新潮文庫ですが、時にはフリーソフトの「窓の中の物語」に青空文庫のテキストファイルを読み込ませて寄ることもあります。写真がその画面です。)