山根由美恵『村上春樹の認識システム』を読了しました。

takuzemi2010-03-06

 午前中は読書をして過ごしました。途中までで読みさしになっていた山根由美恵『村上春樹<物語>の認識システム』(若草書房)を読了しました。ところどころは飛ばし読みしてしまいましたが。・・・第二章の第二節「ウロボロスの世界」では著者は『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の中に現れる「巨大な魚が二匹で互いの口と尻尾をつなぎあわせて円球を囲んでいる図柄」のレリーフに着目します。ここに村上春樹のたくらみがあると読むのですね。山根氏によれば、これは「ウロボロス」であり、「この世界の終りと始まりが繋がって一つの世界を形成する」という概念の象徴であると言うのです。村上作品の中にも「ぐるぐるとまわっていつも同じところへたどりつくのだ」という主人公の感慨が書き込まれていました。山根氏は「世界の終り」という内的世界と「ハードボイルド・ワンダーランド」という現実世界との無限円環としての「ウロボロス」を村上春樹が描きたかったのではないかと推理しています。
 第二章第三節の「緑への手記−『ノルウェイの森』」の章も大変に面白かった。何人かの論者の先行研究を援用しながら、『ノルウェイの森』の冒頭でビートルズの曲を聴いて、激しく混乱する「僕」のかたわらには「緑」はいないのだろうかと山根氏は問い掛けます。「僕」と「緑」は結ばれなかったのだろうという読みなのですね。(私も同じ意見ですが。)氏はこの作品を「僕」が二十歳の時「緑」に説明できなかった「直子」との関係を説明した「緑」へ向けた手記と位置づけています。「つまり、「直子」の死の意味を理解した「僕」が、自らの罪を描くことで、自らの過去を全て「緑」にさらけ出し、新しい生を生きようと決意した」(p.150)と読んでいるのです。『こころ』の「先生の遺書」のような重みを持つものだと言うのです。大変に楽しい読書でした。