母方の祖母の借家のことをなぜか想い出しました。

takuzemi2010-03-07

 私がまだ小さな子供だった頃のことです。母方の祖母は母の妹(つまり私の叔母)と二人で東明寺の門前の炭屋の二階に借家住まいをしていました。幼かった私は母に背負われて、あるいは手を引かれて、祖母の借家へ何度も訪ねていったのを記憶しています。東明寺に向かう大通りには大きな薬屋さんがありました。そのショーウインドーに大人の等身大の骨格標本が展示してありました。分かりやすく言えば骸骨です。本物か複製かは分かりません。けれども子供の目から見ると、その骸骨が物凄く恐ろしいものに思われるのですね。目をつむって薬屋さんの前を通り過ぎたものでした。
 薬屋さんの前を無事に通り過ぎると、右手に駄菓子屋さんのある路地がありました。祖母の借家に行くには少々遠回りになるのですが、母はよくこの駄菓子屋に私を連れて立ち寄ってくれました。駄菓子に混じってベーゴマやビー玉や漫画本などもある不思議な空間だったように記憶しています。どんなものを買ってもらったのか、今となってはもう覚えていません。
 祖母の暮らしは貧しいものでした。また淋しいものでもあったのです。短歌なども好きだった祖父は曹洞宗の僧侶だったのですが、若くして病気で亡くなったのです。長女である母が結婚してからは、次女との二人暮らしが続いていました。
 祖母の借家に上がると唯一のご馳走が待っていました。祖母が「砂糖湯」と呼んでいる飲み物でした。祖母はこれを「さとうぶ」と発音しました。分厚いガラスの砂糖を容れた容器から、祖母がコップに砂糖を一匙注いでくれます。それをお湯で溶かしただけの飲み物です。想いだすとほろ悲しくなるような味だったはずです。