M君の修士論文はペレックの『煙滅』を論じたものです。

 夕方には目白駅前で卒業生のM君と合流しました。M君は数年前まで一緒に「ベケット読書会」を楽しんでいた相棒です。この春には学習院大学大学院博士課程に進学し、9月にはパリ大学に留学する予定です。
 街を歩いてお店を探しました。「ゆるりと時わすれ」という面白い名前の店に入りました。サバの炭火焼きや子持ちシシャモをつまみながら、M君はビールを、私は焼酎のお湯割りをいただきました。
 M君の修士論文ジョルジュ・ペレックの『煙滅』を論じたものです。この本はフランス語の母音字の「e」をまったく用いずに一冊の本を書いてしまうという離れ業を演じている本なのですね。ペレックが所属していた「潜在的文学工房ウリポ」についてもM君は色々と調べている様子です。お酒をいただきながら楽しいレクチャーを受けました。
 「ウリポ」の会員たちは例えば「e」を用いずにフランス語の文章を組み立てるといった、自分に「制約」を課して文学活動をするというゲーム的な側面も重視しているそうです。その中の一人、ジャック・ルーボーは日本の短歌や連句にも関心を寄せているとのことです。私も独り連句を楽しんでいるときの奇妙な高揚感を思い出して、言葉がそこから生じてくる場所の不思議を強く感じました。
 帰りがけにはM君の分厚い修士論文を一冊いただいてしまいました。私にとって思いがけない最高の贈り物となりました。