多部未華子主演の『サロメ』を新国立劇場で堪能しました。

 午後は初台の新国立劇場まで出掛けました。平野啓一郎翻訳、宮本亜門演出、多部未華子主演の『サロメ』を観るためです。原作は世紀末のイギリスの作家オスカー・ワイルドです。訳者の平野啓一郎氏は『サロメ』のパンフレットで「オスカー・ワイルドは少女であるサロメに、残酷さと恐ろしさを併せもつ二重性を帯びさせた」と書いています。また続けて「子供でありながら官能的、子供だからこそ残酷という二重性を明確にしなければ、この芝居の意味はわからない」とも書いています。
 宮本亜門氏の演出もこの平野氏の意図に沿ったものでした。舞台が始まると観客の目の前には純白の書き割りが広がります。舞台装置もできるだけ単純にしつらえてあります。成河の演じるヨカナーンが両性具有的な印象を与えるのも良いですね。奥田瑛二のヘロデと麻美れいのヘロディアが手堅くサロメの周囲を固めて安心して観られました。でも、それは多部未華子が安心できないという意味ではありません。新しい役に挑戦することで一回り大きくなったのでしょうか。ピュアでイノセントで限りなくアナーキーサロメの役を見事に演じきっていたと言って良いでしょう。「子供でありながら官能的、子供だからこそ残酷という二重性」を多部未華子は見事に表現していました。冒頭の純白の舞台装置は結末の真紅の血の海の中に立ち尽くすサロメ多部未華子を際だたせるための宮本亜門氏の演出上のたくらみだったのですね。楽しい時間を過ごしました。(新国立劇場はなかなか素敵な環境でした。椅子も座りやすかったのが印象に残っています。)