「獏食え。獏食え」と呪文を唱えてから珈琲を入れました。

takuzemi2012-07-05

 朝方に奇妙な夢を見て眼が醒めました。私と家人と息子の三人で見知らぬ若い男の部屋に入り込んでいるのですね。私はこの若い男が犯罪者だと直感しています。しかし、私たちはこの若い男の部屋の中であちらこちらに指紋を付けてしまいました。部屋から出てからその事実に気が付いたのです。男の犯した犯罪を私たちの罪にされないとも限りません。そう考えると急に不安になってきました。何とも息苦しい夢でした。この夢のおかげで5時半に眼が醒めてしまいました。
 「獏食え。獏食え」と呪文を唱えてから珈琲を入れました。早めにホールに降りて新聞を取ってきました。新聞に目を通して気分を変えたかったのです。このごろは投書欄を精読する癖が付いています。新聞を読んでしまってから、漱石の『文鳥夢十夜』を引っ張り出して、「夢十夜」の中の幾つかのエピソードを読んでみました。何度読み返しても、この作品の完成度の高さには感心してしまいます。
 午前中は3時間ほどの間、漱石の『文鳥夢十夜』などを読んで過ごしました。柄谷行人氏は『増補 漱石論集成』(平凡社)の中の「内側から見た生」で『夢十夜』を分析しています。柄谷氏は自己認識とは他者の見る私を引き受けることで、「私」自身の認識とはまったく別なものだとしています。そして『夢十夜』は自己を他者としてでなく、いわば自己の内側からみようすれば、どうなるだろうかという問いに答えるものだと言うのですね。自らの「夢」の中を生きていた漱石が浮かび上がってきます。