「耳遠き我にも聞こゆ二階より孫の卓(たかし)の歌うたう声」

takuzemi2012-07-10

 「耳遠き我にも聞こゆ二階より孫の卓(たかし)の歌うたう声」・・・私の祖母が作った短歌を久し振りに思い出しました。祖母は私が子供の頃には叔母(つまり母の妹)と二人で川越の東明寺の門前の炭屋の二階に借家して暮らしていました。私は母にオンブされたり手を引かれたりして祖母の家まで行った記憶があります。
 祖母の家にたどり着く手前に大きな薬局があったのですが、そこは幼い私にとっては鬼門と言っても良い恐ろしい場所でした。実はその薬局のショウウインドウには模型の骨格標本が、つまり等身大の骸骨が展示されていたのですね。それが幼い私にはむしろ骸骨とは見えないのです。恐ろしい悪相の男がこちらを睨め付けているように見えて震え上がったものです。
 この関門をクリアすると母は私を連れて東明寺の手前の路地に寄り道しました。私の大好きな駄菓子屋があったからです。ラムネやらベーゴマやら懐かしいアイテムが店内には揃っていました。何かを買ってもらってから祖母の家に向かうのが常でした。
 祖母の借家は炭屋の二階にありました。祖母と叔母の生活は大変に貧しいものでした。久し振りに遊びにきた孫の私をもてなすために祖母はいつも「砂糖ぶ」を作ってくれました。砂糖をお湯で薄めた飲み物ですね。青い色のギヤマンと呼ぶしかない容器の中から祖母は神妙な面もちで砂糖をすくい出すと、それをコップに入れてお湯を注いでくれました。遠い遠い思い出です。