しまたけひとさんのコミック版で夏目漱石の『夢十夜』を読んでみたいです。

 朝方、朝日新聞の書評欄で紹介されていたコミックを駅前の須原屋書店まで探しに行きました。しまたけひと作『アルキヘンロズカン』(双葉社)です。一人で探していたら、なかなか見つかりません。店員さんに声を掛けて探してもらいました。帰宅して読み始めたら大変に面白い本でした。編集者に「ぶっちゃけ君の漫画は誰も<得>しなんいだよね。会社も読者も君も。もっと危機感を持ったほうがいいですよ」と毒づかれた売れない漫画家が主人公です。お遍路に出掛けても主人公の頭の中の葛藤は簡単に片付くものではありません。それを簡単に解決させずに持続させていくところに作者のこだわりを感じました。
 もう一人の主人公はキヌさんという女性です。会社を辞めて一年ほど経つニートです。おばあ様の提案を受け入れて四国のお遍路に一歩を踏み出すという設定です。コントラストの高いモノクロームの駒割りが際だっています。画のタッチは好みもあると思いますが、私は嫌いではありません。ところどころにストーリーとは直接関係のないかに思われるようなお遍路にちなんだエピソードが挿入されています。例えば〔30番〕の「捨て往来手形」のエピソードなどです。こうしたエピソードも実は「あり得たかも知れないもう一つの生」という形で主人公たちの生を背後から見守っているもののように感じられるのですね。私はしまたけひとさんのコミック版で夏目漱石の『夢十夜』を読んでみたいものだと願っています。