「冥界巡り」のメタファーとも読み取れることを語りました。

 午後の3限のチャイムが鳴ったところでN君にアンケートの趣旨を説明してもらいました。学生諸君がアンケートの回答と取り組んでいる間に、ノートパソコンとパワーポイントのスライドを用意しておきました。N君のアンケートの回収作業が終わったところで、今日の文学の授業に取り掛かりました。先ずはスクリーンにスライドを映写しながら『明暗』のストーリーを解説しました。津田由雄が清子を追いかけて温泉を訪れるのは「冥界巡り」のメタファーとも読み取れることを語りました。
 次に熊倉千之先生の『漱石のたくらみ』(筑摩書房)の抜き書きを元にして作ったハンドアウトを点検しました。漱石は緻密なプランを立ててから執筆する作家でした。その漱石が「数理」にもこだわりを持っていたことを熊倉先生は読み解いていきます。「こころ」の汚れた人が、本来の純白な「こころ」を取りもどすテーマだと先生は結論づけています。これはワイド版岩波文庫の『明暗』の解説で大江健三郎氏が指摘していた<少年のイノセンス>の指標とも合致するのではないでしょうか。
 大切な捜し物と一緒に出てきた一冊のノートがあります。「ロブ=グリエ文学講義」と題されたフィラーノートです。日付を見るともう9年も前のノートなのです。一夏の間、インターネットラジオのFrance Cultureで25日間連続でロブ=グリエのお喋りを楽しみました。音声をハードディスクに録音し、CDにも焼いて繰り返して聴いたものでした。9年前の夏休みの楽しい思い出です。