一番好きなものはかまやつひろしさん作曲の「にぎわい」ですかね。

 浅川マキさんという歌手がいました。ブルースを歌っていました。巡業先の名古屋のホテルで急性心不全で倒れて亡くなりました。2010年1月のことです。私は大学生の頃から浅川マキさんが大好きで、LPレコードも何枚も買い求めていたものです。友人のG君が私の下宿に遊びに来たことがあります。マキさんのLPのジャケットを見せたら「なんだ、美人じゃないじゃないか」という言葉が返ってきたので激怒した記憶があります。歌手の一番大切なものは顔じゃなくって歌心でしょう。
 浅川マキさんの歌の中で一番好きなものはかまやつひろしさん(ムッシューかまやつさん)作曲の「にぎわい」ですかね。「ほんの少しだけ、遠出したくなった。今夜の俺は、どこへ行くのだろか」と浮遊感覚が歌われます。いつもの店のドアを開けた語り手は「誰も振り向かなくて、あいつも居なかった」ことに喪失感を感じます。かなり痛い感じの歌なのでした。
 ロッド・スチュアートの曲「ガソリンアレイ」も日本語で上手に歌っていました。インドの曲だったでしょうか、「ゴビンダ」も良かったですねえ。「赤い橋」や「かもめ」には身震いした記憶があります。とりわけ「赤い橋」には自分がこれから死ぬのかも知れないという予兆を感じている気配が感じられました。「かもめ」の方もあばずれの娼婦がストーカーみたいな男に刺し殺されてしまうという恐ろしい話しでリアリティーがありました。浅川マキさんのコンサートを一度も見たことがないことが私の生涯の最大の悔恨です。