ダルーさんが着てきたマリ共和国の民族衣装をうっすらと覚えています。

 もう10年以上も昔の話しです。文学部中国文学科にFさんという学生がいました。Fさんは一年間の予定で中国に留学したのです。そこでアフリカのマリ共和国出身の黒人男性ダルーさんと知り合ったのです。ダルーさんは王族の出身で、科学技術を学ぶために中国に留学していたのでした。
 二人はそのうちに愛し合うようになり婚約もしました。二人の会話は中国語で交わされていました。マリ共和国公用語はフランス語です。ダルーさんの親戚にはパリに住んでいる者も多いと聞きました。このFさんとダルーさんのお二人が私のフランス語のクラスに遊びにきてくれたことがありました。
 クラスの学生諸君にダルーさんに対する質問をしてもらうのです。それを私がフランス語にしてダルーさんに尋ねる。ダルーさんの答えを再び日本語に訳して学生諸君に返すという段取りです。マリ共和国が一夫多妻の国であるということで次のような質問がありました。「ダルーさん、Fさん以外にも奥さんを貰うつもりがありますか?」と言うのです。答えは当然のように「Non!」でした。
 「マリという国はどんなところか?」「Fさんと知り合って、好きになったのはなぜ?」などとダルーさんの答えを日本語に訳すのが難しいような質問もあって困りました。その時、ダルーさんが着てきたマリ共和国の民族衣装をうっすらと覚えています。赤い小さな四角い帽子は別として、日本の作務衣に似ているような印象でした。