『星の王子さま』の冒頭には献辞が着けられています。

 『星の王子さま』の冒頭には作者のサンテグジュペリの親友であるレオン・ヴェルトに対する献辞が着けられています。このレオン・ヴェルトという名前はヨーロッパの人間ならすぐにもユダヤ人だとわかる名前なのだそうです。その辺りをヒントに考えてみたら面白そうです。サンテグジュペリユダヤ人の立場に立って世界を見ているのです。
 「異化効果」という言葉があります。余所者の視点から世界を見ると「世界がなんだか変だぞ」と見えてくるという意味なのですね。夏目漱石の『吾輩は猫である』の吾輩の視点がそれだと言えるでしょう。猫の視点から見た人間たちの思考や行動が批判的に対象化されているのです。子供の視点から大人の世界を見ることも同様です。サンテグジュペリも子供という余所者の視点から大人の世界を見ることで異化の視点を生じさせているのだと言えるでしょう。
 この物語からは「知の獲得」というテーマを読み取ることができます。王子もパイロットも相手を少しずつ知っていくのです。それは二人の間にキツネの言う「絆」が生じるプロセスでもあります。二人の間の「絆」は対話というプロセスで生まれることも重要でしょう。
 対話とは人と人との関係です。あるいは人と人との関係の可能性です。『星の王子さま』には対話による「知の獲得」というテーマが見事に書き込まれています。王子とパイロットが時には軋轢を生じながらも、対話によって二人の親密な関係を築いていったことは否定できません。