大学時代にヴィエ先生というフランス人女性の教師がいました。

takuzemi2013-02-12

 夏目漱石の『門』には主人公の野中宗助が大家の坂井と親しくなって書斎に呼ばれる場面が何度も出てきます。坂井は自分の書斎のことを「洞窟(とうくつ)」と呼んでいます。「これが僕の洞窟で、面倒になると此処へ避難するんですよ」(新潮文庫『門』p.221.)と言うのですね。一種の胎内回帰願望を満たしてくれる空間ということでしょうか。高等遊民としての坂井の面目躍如という気がします。こんな風な空間を確保しておいて、時々は逃げ込むという生き方も悪くないなと思います。
 大学時代にヴィエ先生というフランス人女性の教師がいました。(フランス語の綴りではViéです。)小林秀雄を通じてランボーの心酔者になっていた級友のG君がヴィエ先生に「ランボーのことはどう思われますか?」と問い掛けたことがありました。そうしたら、ヴィエ先生は「C'est de la jeuness.」と答えたのです。「それは青春の産物ね。」とでも訳せましょうか。何ともデカルト風の合理主義的な回答でG君も相当にがっかりした様子でした。ヴィエ先生にはその他にも授業中に繰り返す口癖がありました。「Imaginez ! Travaillez !」というものです。「想像しなさい! 勉強しなさい!」という意味ですね。(前の半分はジョン・レノンの「イマジン」と同じですね。)これも当たり前すぎる、素っ気ない言い方のように感じられるかも知れません。しかし、当たり前のことをきちんとやれることが人生の基本なのかなとも考えさせられます。