『まずいラーメン屋はどこへ消えた?』で語っている「隣にずれる」の手法ですね。

takuzemi2013-07-01

 2年ほど前に秋口に文教大学湘南キャンパスに呼ばれて90分ほどの市民講座でお話ししたことがありました。お題は「夏目漱石と五感」というものでした。市民講座の統一テーマが「五感を考える」というものだったので、自分が得意の夏目漱石に引っ掛けたのだったと思います。岩崎夏海さんが『まずいラーメン屋はどこへ消えた?』で語っている「隣にずれる」の手法ですね。実は「夏目漱石と五感」というテーマを考え続けてみようという発想は明け方の夢の中で浮かんできたものでした。慌てて起きてメモに書き留めたことは言うまでもありません。
 「夏目漱石と五感」をテーマにA4の紙を横に置いてマインドマップを作ってみました。『それから』の主人公・長井代助の臭覚が鋭いこと、そして体内感覚にも鋭敏なことなどが真っ先に思い浮かびます。そして『三四郎』や『それから』が目覚めの場面から始まることにも何らかの意味がありそうな気がしてきます。さらに『明暗』の主人公の津田由雄の自分の身体が病んでいるという感覚に付いても考えてみたくなります。(けれども津田は自分の心も病んでいることには無自覚のままです。)『門』は主人公・野中宗助の休日の描写から始まります。縁側で日向ぼっこを楽しんでいる主人公の「暖味」(あたたかみ)は一種の伏線として解釈することもできそうです。同じ宗助が安井を恐れて鎌倉の寺に参禅するエピソードでは五感でなかなか捉え難いはずの「父母未生以前本来面目」に主人公が四苦八苦するさまも思い出されます。