点景の中に私自身も入り込んでいくような錯覚に囚われました。

 日中はアラゴンに付いての論文の下書きのマインド・マップを作ったり、読書で時間を過ごしたりしました。読んだ本は林宏平著『ブリティッシュ・ロック 思想・魂・哲学』(講談社選書メチエ)です。先日から読み進めている本なのですが、今日は第三章「ロック・霊性を啓くもの」の章を興味深く読みました。クローリーやグルジエフという神秘主義思想家とロックとの間に架橋を築こうとする著者の力業が冴える部分です。バルトなどの批評家の引用もふんだんにあり、著者の強引なまでの力業を感じさせられました。
 午後の2時過ぎには埼玉県立近代美術館まで出掛けました。何とも暑い午後でした。武蔵野線埼京線の乗り換え時間は大したこともないのですが、北浦和駅から美術館までの500メートルほどが暑くて閉口させられてしまいました。65歳以上は無料だと思っていたので、窓口で住民基本台帳カードを提出したのですが、係の人から「無料の制度は先日から廃止になったのですよ」と言われてしまいました。やむなく、1100円を支払って「浮遊するデザイン 倉俣史朗とともに」を見学しました。およそ実用的でないプラスティックや木の椅子が並んでいます。倉俣史朗の後は常設展を見ました。私が知らなかった高田誠という画家の作品が並んでいました。「つゆの晴れ間」「妙高山麓の町」「村の入り口」と3枚の絵が並んでいます。最後の「村の入り口」が良いですねえ。後ろ姿の子供たちが3人並んでいるのです。その点景の中に私自身も入り込んでいくような錯覚に囚われました。素晴らしい至福の時を過ごしました。