「変な言い方かもしれませんが、時間がキラキラした水みたいに流れるのです。」

 今日の朝日新聞のオピニオン欄は面白かったですね。耕論のテーマは「時間を取り戻す」となっていました。3人の論客がそれぞれにエッセイを書いているのですが、中でも面白かったのは94歳になる女性作家の久木綾子さんです。少しばかり久木さんの言葉を引用してみましょう。「パソコンのワードを大張り切りで勉強して。年なんてとらずに、逆に若くなっていく感じでしたよ。(…)今年の2、3月以降、執筆する時間をそれまでの昼間から反転させ、午後11時から翌日の午前5時ごろまでの6時間に集中させるようになりました。(…)私は東京の都心部に住んでいますが、その時間ならば、騒音はほとんど聞こえません。月に1、2度走る救急車も、聞き逃すことがあります。夏場でもエアコンを少しつけて窓をあけると、空気の感じも、ちょうどいい。山中にあるわき水があふれる場所に立つ一軒家で暮らしている感じになります。(…)変な言い方かもしれませんが、時間がキラキラした水みたいに流れるのです。書いている間の私は、無限大、無尽蔵の時間を持っている感覚になり、もう死なんて訪れないように思うんです。6時間の時の流れを十分に味わい尽くしています。」と言うのですね。そして、結論として久木さんは次のように続けます。「人生の残り時間ですか? 考えませんね。少なくともあと2冊は小説を書きたい。前途洋々ですよ。」という言葉でこのエッセイは終わっていました。デビッド・アレンさんの言葉を援用するなら久木綾子さんは「ゾーン」に入る方法を熟知している人物だと言えるでしょう。「時間がキラキラした水みたいに流れる」という言い回しにも深い感動を覚えました。