「生まれてきて本当によかった」と言える人間の一人なのでしょう。

 大阪府立大学の学術情報リポジトリからインターネット経由で入手した森岡正博先生の「誕生肯定とは何か:生命の哲学の構築に向けて(3)」を読みました。A4で41ページもある力作です。森岡さん自身の定義に寄れば「誕生肯定」とは「悔いなく生き切るとは、私が死に面したときに、「生まれてきて本当によかった」と、深く心から自己肯定をできるようになることを目指して、私がいまここの生を行き尽くすことである」とあります。「生まれてきて本当によかった」という言葉と「私がいまここの生を生き尽くす」という言葉の二つが「誕生肯定」の核を成していると言えそうです。
 実はこの「誕生肯定」という言葉は森岡さんと漫画家の寺田にゃんこふさんの共著『まんが 哲学入門』(講談社現代新書)でも何度も使われています。私はこの本を読了することがなかなかできず、大学へ通勤するときのバックパックに常時入れてあり、武蔵野線の車中でも気が向いたときに引っ張りだして読むのですね。西武所沢店の7階で開催された宮崎駿監督の『風立ちぬ』の原画展の半券を読み終わったところに挟み込んであるのです。(こうしておけば何時も読み終わったところから続きが読めますから。)漫画の登場人物のまんまるくん、そしてわれらがエム先生の表情が可愛らしくて読了することができません。もうこの本は20回以上も読んだでしょうか。それでもなかなかこの本の秘めている価値は汲み尽くせたと言えないように感じています。こんな本を持っている私は「生まれてきて本当によかった」と言える人間の一人なのでしょう。