マイナスの感情が書き込まれているテクストは無数に存在します。

takuzemi2014-02-19

 否定的な感情が書き込まれているテクストが往々あるものです。喪失感とか無力感とか、マイナスの感情が書き込まれているテクストは無数に存在します。初期のアラゴンの詩や散文は否定的な感情のオンパレードでした。例えばアラゴンの「廃墟に叫ぶ歌」は次のように始まります。「唾しよう/二人して唾しよう/我々が愛したものの上に/二人して/なぜならこれは/ワルツのひとふしだから(中略)下賤の愛/お前たちにとっての愛/それは首尾よく一しょに寝ることだ/首尾よく」と続きます。愛を下賤のものに貶めてしまおうという絶望感が良く表れている作品で私も気に入っている作品です。村上春樹の『ノルウェイの森』も夏目漱石の『こころ』もマイナスの感情が書き込まれているテクストです。主人公や様々な人物に感情移入しながらテクストを読む読者たちも否定的な感情を体験することになります。村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』で間宮中尉が語る間諜・山本の皮剥の場面などは本当に私も痛みを感じてしまいました。それでも私には「痛」かったり「辛」かったりするベクトルが書き込まれているテクストはそれなりに価値があると考えています。私の祖母は生前「この世は苦のシャバだねえ」と言うのが口癖でした。生きることは楽なことではない、それは人生に関する普遍的な真実なのです。ですからマイナスの感情を他者に伝達できるような形でテクストに書き込むことは類まれな立派な行為なのだと思われるのです。