物語の中の何が読者の関心を魅了し、読者を誘惑するのでしょうか?

takuzemi2014-02-25

 物語の中の何が読者の関心を魅了し、読者を誘惑するのでしょうか? 人間は誰しも未知のものを理解したいという本能を持っているでしょう。我々の目の前に謎があったら、その謎を解きたいという本能もあるでしょう。不安定な状態を引きずらせる不確定要素を確定させたいという本能もあるでしょう。もっともっと知りたいという「知の獲得」への欲求も物語が読者を引き寄せる原因の一つとしてカウントできるかも知れません。ルイ・アラゴンは物語の面白さに付いて、お話をもっと聞きたがる子供の「で、それから?」という声に物語の醍醐味を見出しています。サスペンスという言葉があります。未解決、不安、気掛かりの意です。読者を居心地悪くさせるこうした要素こそが読者に読書の向こう側を期待させるものなのでしょう。言わば結末の不在が逆に結末を期待の地平として拓くのだと言えましょう。マルセル・パニョールの自伝的映画『マルセルの夏』ではパピヨン男爵と自称する男がマルセル少年の前に現れます。この男は「山の向こうに何があるかを知りたがるのが人間どもなのだ。」と断定します。そして未知のものを理解したいという人間たちのこうした本能が不幸な人間を産み出すのだと言うのですね。けれども彼の教えに素直に従ってしまったなら、あらゆる物語や美術作品は消え失せてしまうのではないでしょうか? 物語や美術作品はそうした意味で「逸脱の産物」だと言えるのかも知れません。