今日は「行きて還りし物語」に付いて考えてみましょう。

takuzemi2014-02-28

 今日は「行きて還りし物語」に付いて考えてみましょう。この物語は児童文学などに多く見られる類型で、主人公(たち)が日常的世界から異界へと迷い込んで、再び日常の世界へと帰ってくるという筋を特徴としています。一例を挙げれば先ずはアーシュラ・K・ル・グィンが書いた『ゲド戦記』でしょうか。この物語は宮崎駿監督の息子さんに寄ってアニメ化されたことで有名になりました。また「行きて還りし物語」の構造を持っていることでも知られています。また「成長小説」としての側面を併せ持っていると言われています。学生諸君が夏休みに時間を掛けて読むのにはもってこいの物語だと思います。またC.S.ルイスの『ナルニア国ものがたり』は子供たちがナルニアという不思議な魔法の国にワープしてしまうという物語です。当然、子供たちは勝手が分からない困難と遭遇します。子供たちが勇気と知恵を振り絞って問題解決と真摯に立ち向かうところが読者である私たちに取って一番の見どころです。とりわけ私が好きなのは『朝ぼらけ丸東の海へ』のラストシーンです。光輝く海の中を漂う朝ぼらけ丸のイメージが忘れられません。付け加えれば村上春樹の『ノルウェイの森』も夏目漱石の『坑夫』も「行きて還りし物語」の構造をしていることを学生諸君に語ればこの概念に付いて分かりやすく説明できそうです。こうした物語群を体験することで、現実界としてのこちら側と冥界としてのあちら側との二項対立から、両極の相貌がより明確なものとして見えてくるのが、この物語の特性だと言えるのでしょう。新たな認識を手に入れることで主人公は成長します。だから「行きて還りし物語」は「成長小説」のモーメントを含むものだとも言えるでしょう。