書斎でアナログなレコードを聴いていたら本棚から自筆のノートが出てきました。

 書斎でアナログなレコードを聴いていたら本棚から自筆のノートが出てきました。『航海日誌』と題されたこのノートは1980年の夏休みの記録を書き記したものでした。娘が生まれたばかりで、手間が掛かったりましたことも書いてありました。当時の私はかなりモラリスト風に生きていたらしく、いたるところに格言風の記述が出没することでも分かりました。例えば「手で物を弄ること(manupler les choses)が気分転換して大いに意味がある」などという記述がそれに当たりました。読書もかなり盛り上がっていた様子でした。ドミニック・アルバンとの対談『アラゴンは語る』や『犬の頭』などを原書で読んでいたのでした。『アラゴンは語る』の方は何度も私の論文に引用させてもらったものでした。クローデルの『真夏に分かつ』も愛読書でした。男女の不倫をテーマにした戯曲だとは覚えているのですが、男性の名前は残念ながら思い出せず、女性の名前は確かイゼと言ったと覚えています。この戯曲も大好きなもので未だに強烈な記憶が残っています。躁鬱の躁状態の友人が私の家に二泊して行ったのも懐かしい思い出です。友人が泊まりに来たのは家人と娘が船橋の実家に里帰りしていた十日間の間だったのでしょう。当時は週に二冊のフランス語の原書を読むと「自分自身と秘密結社を組む」(ポール・ヴァレリー)と決めていた頃でした。週末になると毎週あっぷあっぷ状態だったことを懐かしく思い出します。マルグリット・デュラスの『モデラート・カンタービレ』や『かくも長い不在』などを原書で読んだことも記憶に残っています。この夏は娘が「掴まり立ち」を始めた夏でした。その娘がY君という良い伴侶を見付けて、幸せな結婚生活を送っていることに私の幸運を噛みしめました。付け加えればこの年の夏は雨が多かったことがノートに書き込まれています。畳に黴が生えて大変だったことも記されていました。