文学の第1回は「『吾輩は猫である』を読む」と題してお話ししました。

 文学の第1回は「『吾輩は猫である』を読む」と題してお話ししました。冒頭の一句は「吾輩は猫である。名前はまだ無い。どこで生まれたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。」と有り鳴くではなく、泣くと表記されていることに学生諸君の着目を促したものでした。冒頭の一句はアラゴンが言う「ロマネスクな世界への入り口」である事も喚起しました。ドイツのブレヒトが提唱した「異化効果」に付いても解説しました。日常見慣れたものを未知の異様なものに見せる効果であり、猫が人間の社会を見る眼は「人間って何だか変だぞ」と考えることを例に引きました。『星の王子さま』の子供から見ると「大人って変だな」と言うことも同じことですね。夏目漱石の自伝的小説『道草』も紹介しました。「新しい仕事の始まるにはまだ十日の間があった。彼はその十日を利用しようとした。彼はまた洋筆(ペン)を執って原稿紙に向った。そんなこんなで『吾輩は猫である』が書かれた経緯をお話ししました。漱石の初期作品には一人称の使用例が多いことも触れておきました。『坊ちゃん』の「おれ」や『草枕』の「余」などですね。コリン・ウィルソンの言う「アウトサイダー」の視点から世界を批判的に見るというスタンスが感じられます。フランス語の5では『星の王子さま』を原書で読みました。ドイツからの留学生が現れると思っていたのですが、全く現れず日本人の女子学生と一緒に読みました。レそのオンヴェルトに対する献辞も読み上げました。この本をおとなに捧げてしまったことを、こどもたちにあやまらなければならない。つまり、そのおとなはぼくにとってこの世でいちばんの親友なんだ。それからもう一つの理由。そのおとなは何でもわかる人で、こどものための本だってわかるのさ。そのおとなはフランスにいて、いま飢えと寒さに苦しんでいる。とてもなぐさめを必要としているんだ。」と有りレオンヴェルトに対する切々とした思いが感じられました。(写真はマルク・シャガーの「婚約者」です。)