「文学」の授業では『こころ』の「先生」が自殺した訳は?と題してお話ししました。

 11時42分の各駅停車南船橋行きで移動を開始しました。車中では幸い座席を確保できたので三好行雄編『漱石書簡集』(岩波文庫)を読みました。正岡子規宛の手紙にこんな文が有ります。「ああそうそう、昨日目医者にいったところ、いつか君に話した可愛らしい女の子を見たね。−−天気予報なしの突然の邂逅だからひゃっと驚いて思わず顔に紅葉を散らしたね。
 「文学」の授業では松本寛さんの『漱石の実験』(朝文社)からの抜き書きで作ったハンドアウトを利用して講義を進めました。『こころ』の「先生」が自殺した訳は?と題してお話ししました。『こころ』が多くの読者から愛読されている訳は、この作品が持っている強い倫理性と「私」と「先生」の語り口に感じられる親近感に有ると言うこともお話ししました。語り口は作品中に話者を設定して、そこから話者との関係に即した愛称や敬称で人物たちを呼んでいる方法を取っていることもお話ししました。「私はその人を常に先生と呼んでいた」と語り始める若者も父が重体に陥った後、家を出て何処に行ったか知れないという事を話して、オープンエンディッグの作品である事もお話ししました。帰路は北浦和埼玉県立近代美術館で「private,privateわたしをひらくコレクション」を観賞しました。800円のチケットを買って二階に上がると須田剋太の「読書する男」が有ります。椅子に座って本を読んでいる男の絵で本に夢中になっていることが、顔の表情から良く分かります。パネルに寄ると須田剋太は熊谷中学校を卒業して浦和に出て東京美術学校を受験したそうですが、4回失敗してゴッホ写楽などの作品に励まされて、ほとんど独学で絵を学んだそうです。独学とは思えない作風なので強い印象を受けました。横山大観の「海辺巌」には海辺の断崖の上に二匹の鶴が居て断崖の間から青い海が見えています。草間彌生の「魂たちが安息する穴」は青い色の楕円の中に何かが有って魂を暗示しているのだろうと思いました。地下の会場に降りるとMOMASコレクションが有り、キスリングの「リタ・ヴァン・リアの肖像」が有り赤いマフラーを巻いて黒いドレスを着た女性の姿で、青い瞳をしていて髪は茶色です。ジュルジュ・ルオーの「横向きのピエロ」は静謐さを湛えるピエロの姿で沈黙しています。何か宗教的な感じを受けたものでした。(写真はジュルジュ・ルオーの「横向きのピエロ」です。)