「文学」では漱石の『彼岸過迄』を考えました。

3限の「文学」では『文学理論のプラクティス』(新曜社)で展開されている「ノモス」と「カオス」の二項対立の話をまず冒頭で紹介しました。「カオスの遇し方」という章で面白い話題が提示されているのです。著者は『仕事をするミュスティ』と『どのようにして頭に石が当たり、ネズミさんは世界を発見するか』という二つの子供向けのテクストを対立的に分析した上で、『ミュスティ』を「ノモス的」、『ネズミ』を「カオス的」と定義します。前者は中心統一的、ノモス(基準)志向的、円環的、モノロジック・・・と定義し、後者は脱中心的、カオス尊重的、離散=脱円環的、ディアロジック・・・と定義します。私に言わせれば漱石のテクスト『彼岸過迄』はまさしく後者の『ネズミ』的なテクストの典型に思われます。『プラクティス』では探偵=推理小説に付いても「カオスを解消しない探偵=推理小説」という切り口を提供してくれます。最後まで読んでも犯人が誰なのかが特定されない推理小説ですね。これって『彼岸過迄』だけでなく、漱石の多くの小説に当てはまりはしないでしょうか?