摂津幸彦を知ったのはI君からの手紙が切っ掛けでした。

 摂津幸彦という俳人の存在を知ったのは親友のI君からの手紙が切っ掛けでした。友だちからの封筒を開くと一枚のコピー用紙が出てきたのです。小林恭二さんの『俳句という愉しみ』(岩波新書)の59ページと60ページの摂津幸彦自薦十句のコピーでした。目を通してみたら何とも不思議な俳句で驚きました。「南浦和のダリヤを仮のあわれとす」「南国に死して御恩のみなみかぜ」「野を帰る父のひとりは化粧して」「国家よりワタクシ大事さくらんぼ」「路地裏を夜汽車と思う金魚かな」と続きます。最後の一句は祭りの夜に露天の金魚掬いで、浴衣姿の少女たちに掬われた金魚がビニール袋に入れられて路地を移動していくイメージでしょうか。
 小林恭二さんの『俳句という愉しみ』も素晴らしい本でした。私も大学時代の友人たちと何回か句会の真似ごとを楽しんだことがあります。けれども、小林さんの企画した句会はまったくレベルが違います。そうそうたる名人たちが集まっているのですから。この本のおかげで俳人の三橋敏雄さんのファンになりました。海を歌った句が多い方です。小林恭二さんには同じ岩波新書に『俳句という遊び』と歌合を解説した『短歌パラダイス』という作品もあります。愉しみ、遊び、パラダイスの三冊は私にとって家宝みたいな赤い表紙の三冊本なのですね。同僚のフランス語のT先生は(『めぞん一刻』で休講掲示の出ていた先生ですが)ゼミでは連句ならぬ連詩を楽しんでいます。そのT先生に三冊の本をお貸しして大変に喜ばれたこともありました。